Organoid Intelligence (OI)の動向を記載したレビュー論文"Organoid intelligence (OI): the new frontier in biocomputing and intelligence-in-a-dish" の論文要約メモです。
- はじめに
- Organoid intelligence (OI): the new frontier in biocomputing and intelligence-in-a-dish
- おわりに/所感
- 参考
はじめに
AIの仕組みを知れば知るほど、生物の神経に比べて非効率だな、まだまだ発展途上なんだなと感じることがあります。
そんな中、まさに神経細胞をコンピューティングの要素として使ってしまおうという分野があることを知りました。
今回は、そんなOrganoid Intelligence (OI)の動向をまとめたこちらのレビュー論文を読んでいきます。
- 2023/02/28 公開
- Review論文
レビュー論文につき内容が盛りだくさんなので、個人的に印象に残っている部分をピックアップしてまとめます。 気になった方はぜひ原著をご覧ください。
なお本記事で掲載する図は全て上記論文からの引用です。
おもしろい
— BioErrorLog (@bioerrorlog) May 1, 2024
AIならぬOI: Organoid Intelligence
神経細胞を使ったAI - 培養皿の中の知性 - の実現を目指す分野とのこと pic.twitter.com/prikp7czIg
Organoid intelligence (OI): the new frontier in biocomputing and intelligence-in-a-dish
概要
- 背景
- 脳は複雑なタスクにおいてコンピューター(in silico)よりエネルギー効率がいい
- 脳の学習は(現状のAIより)データ量が少なくて済む
- OI: Organoid Intelligenceの提唱
- intelligence-in-a-dish, "培養皿の上の知性"
- Biocomputingの中で、真に脳神経細胞を用いてコンピューティングを行うものを包括して指す概念
- 特徴
- 脳神経細胞の3D培養
- ミエリン化、グリア細胞などの多様な細胞種構成
- マイクロ流体灌流システムによる栄養や化学シグナルの制御
- 高精度の神経活性記録
- 電気的/化学的な刺激入力
- 刺激(入力)と活性記録(出力)による学習
- Open-loop / Closed-loop
背景
- 人間の脳は現代のコンピューターよりもエネルギー効率が良い
- 単純なタスク(単純計算など)は脳よりもコンピューターの方が優れているが、複雑なタスクや情報が足りないタスク(例: 複雑な問題に対する意思決定)は脳の方が早い
- 現代のAIの学習は大量のデータを必要とするが、脳の学習で必要なデータはずっと少ない
OI: Organoid Intelligence
OIのアーキテクチャ
- Organoidの培養
- 3D培養による高い細胞密度
- マイクロ電極を纏った殻/シェルで包み、organoidとのインターフェースとする
- Organoidへの入力
- マイクロ電極からの電気刺激
- マイクロ流体灌流システムからの化学シグナル
- オプトジェネティクス(光遺伝学)
- 網膜organoidからの神経活動入力
- 出力の検知
- マイクロ電極による電気的信号検知
- 蛍光観察
- 共焦点顕微鏡
- 解析
- OIの反応(入力/出力)を解析するAI/機械学習アルゴリズム
- OIのデータを解析可能な形で保管するビックデータ基盤
神経細胞の3D培養
- 2D培養と比べた3D培養のメリット
- 細胞密度
- 細胞分化: 脳神経活動/学習に必要な多様な細胞への分化を可能にする
- ミエリン化
- マイクログリア
- アストロサイト
- (B) 成長につれ細胞種の多様性を増すorganoid
しかし神経細胞の3D培養には課題がある:
- 栄養の届かない中心部分は死んでしまう
マイクロ流体灌流システム
- Organoidの中心部分は栄養が届かず、ネクローシスを起こして死んでしまう
- 栄養が届くのはせいぜい300μm
- 実際の脳では血管/血液が張り巡らされており、栄養の補給と老廃物の排出を行っている
- Organoidでもこの役割が必要
そこでマイクロ流体灌流システム
- 神経細胞に必要な要素を供給する
- 酸素
- 栄養
- 成長因子
- このシステムは化学シグナルの制御にも使える
神経活動の記録
3D organoidの神経活動をどうやって記録するのか?
- マイクロ電極を持った柔らかい自己折りたたみ式の"殻"でorganoidを覆う
- 人間の脳は測定器にインスパイアされている
- E-G: 自発的な電気活性を示すorganoid
- 自発的な電気活性は、活動性のシナプスの存在を示している
Organoidの神経活動の記録ついて、他にはどんな観点がある?
- 埋め込み式電極
- 先述の"殻"方式は非侵襲型、埋め込み電極は侵襲型
- 侵襲型は組織へのダメージとのバランスが求められる
- 現在、適切なプローブの探求中の段階である
- 光学的観察
- Organoid記録手法としての最終形にはならないだろうが、その振る舞いを観察するのに役立つ
- 記録点の調整
- 全ての神経活性を記録し解析することはできない
- ごく少数の重要な情報を特定し、観察することができるか
神経活動の分析
では取得した神経活動をどう分析/解釈する?
- Organoidの出力の分析や学習のためのアルゴリズムが必要になる
- Organoidの機能変化を定量化するための統計的/機械学習的アルゴリズム
- Organoidのアーキテクチャ変化を定量化するためのアルゴリズム
- 学習を可能にするための、organoid変化と出力に関する多変量因果モデル
- ビッグデータ基盤
- 記録データ量は膨大になるので、それを格納/分析するためのデータ基盤が必要になる
- 神経活動のための標準データ構造も必要
- それらのデータをオープンにするための仕組み
- マルチモーダルなデータ
- コミュニティのリファレンスになるデータセットの提示
学習における観点
OIを学習させるときに考慮すること
- Organoidインタラクション
- Open-loopとClosed-loop
- Open-loop: 入力を与えて、反応を記録する
- Closed-loop: 入力を与えた結果である神経活動をフィードバックに使う
- 生化学的な観点の活用
- 学習時に活性化が必要な遺伝子の活用
- シナプス可塑性や記憶形成に重要な要素
- immediate early genes (IEGs)
- neurotransmitter receptors
- 学習時に活性化が必要な遺伝子の活用
今後の展望
- Organoidシステムのスケールアップ
- Organoidによるコンピューティングの実現
- より高度なorganoidインターフェースの実現
- 倫理的問題の解消
おわりに/所感
以上、論文"Organoid intelligence (OI): the new frontier in biocomputing and intelligence-in-a-dish"の要約メモでした。
以下は私の個人的なメモです。
- 次に読みたい引用論文は何か
- In vitro neurons learn and exhibit sentience when embodied in a simulated game-world https://www.cell.com/neuron/fulltext/S0896-6273(22)00806-6
- The concepts of ‘sameness’ and ‘difference’ in an insect | Nature
- その他所感
- 流石にまだ始まったばかりの分野であり、今後発展していくための基盤研究が必要である、という温度感を全体に感じた。 とはいえ↑の論文(In vitro neurons learn...)のように、一定の学習能力を示している研究はすでに存在している。 何かキラーケースが出てくれば一気に発展するのかもしれない。 ただ、in silicoのAIと違って設備がないと実験ができないのが、興味を持った人間には難しいところ。 ごく簡単に試す何かいい方法はないだろうか。 またCortical Labsのような企業がどこまで進んでいるのか気になる。
[関連記事]
参考
Frontiers | Organoid intelligence (OI): the new frontier in biocomputing and intelligence-in-a-dish